2004年12月26日のスマトラ沖地震のとき、私はシンガポールからカンボジアに入っていた。そこで数ヶ国を飲み込む大津波によって数十万人が波に飲まれて死んでいったことを知った。
すぐにタイに向かい、タイでずっとこの事件をテレビで追っていた。タイも被害に遭っており、その惨状が映し出されていた。被災地はほんの眼と鼻の距離だ。
繰り返し繰り返し報道された津波の荒々しい映像を見ながら、もし現場にいたら自分が助かったかどうかを考えていた。
助かっていた人が助かっていない
そのあともずっとこの大津波の災害を見ていたが、やがてひとつのことに気がついた。本来は助かっていた人が助かっていないことだ。
たとえば、タイのラヤ島では突如として浜辺から波が引いていき、人々が不思議そうに沖を見ている写真がある。人々は異変に気がついていたが逃げなかった。
やがてその2分後には前人未到の大津波が押し寄せて来るのだが、それでも、ぼーっとして波を見ている人たちの姿が写真に残されたりしている。
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| こんな波が来ても、まだぼーっと見つめている人もいる |
自然災害はそれが襲いかかってくるまで災害になるとは誰も気が付かないということだ。まして、「津波に襲われる」ような体験は生涯のうちに1度あるか2度あるかくらいの確率でしかない。
だから、ビーチにいたら、突如としてどんどん潮をが引いていったという現象を見て、津波が来ると直感する人は少ないし、ましてそれがどれくらいの規模になるのかも分からない。
そうやって多くの人々が逃げ遅れ、最終的にこの災害で約20万人の人が亡くなった。
助かっていたはずが助からなかったというのは2011年3月11日の東日本大震災でも起きたことだった。マグニチュード9の大地震が襲いかかったあと、海岸に住む人たちはどうしたのだろうか。
津波が来ると直感した人は逃げたが、多くの人たちは家の中で散らばった食器や棚から落ちたものを片付けていたか、もしくは外に出て「さっきの地震は大きかったですね」と近所の人と井戸端会議をしていたのだという。
津波が来ると知らされていても、多くの人たちは「まあ大丈夫だろう」と家の中にいたという。「正常性バイアス」のワナに入り込んでいた。
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| 波が引いた、聞きなれない音が聞こえる、遠くに波が見える。 それでも逃げず、波が見えてやっと慌てる人もいる。 |
正常性バイアス
正常性バイアスというのは、「まあ大丈夫だろう」「避難するほどでもないだろう」「避難して何もなかったら大騒ぎした自分が恥ずかしい」という感情だ。
大災害の最中でも、人々はしばしば「正常性バイアス」のワナに入り込む。
たとえば、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロでも、ニューヨークの貿易センタービルに飛行機が突っ込んでビルが揺れている最中でも、多くの人たちは「正常性バイアス」にとらわれていたことが確認されている。
ビルの中にいた人たちは、間違いなく何か異様なことが起きたこと、爆音が轟いたこと、ビルが揺れていることを知っていた。そして、ガソリンが焦げる臭いさえ嗅いでいた。
それでどうしたのか。多くの人たちは肉親や友人に電話をかけて「今、何か起きているんだよ、うちのビルで」とのんきに話していたのである。
そしてやがて避難命令が出たときも、人々は「身の回りを整理」したり、「コンピュータの電源が切れるのを椅子に座って待っていた」りしていた。
モルガン・スタンレーの社員だけは、ヘルメットをかぶって、猛烈な勢いで階段を駆け抜けて降りて千人ほどが助かっているが、それはなぜなのか。
ベトナム戦争帰りのリック・レスコラという頑固一徹の警備員がいて、社員を「ちんたらするな!」と怒鳴りつけながら避難させていたからだ。
軍人上がりのリック・レスコラは崩壊するビルから逃げず、最期まで人々を助けようとして残ったので犠牲者のひとりとなった。
しかし、人々が何が起きているのか自覚していない時に、兵士独特の嗅覚で「重大な危機が訪れた」ことを悟っており、死の覚悟をして、妻に最後の別れの言葉を電話で言っていた。分かっていたのだ。
リック・レスコラは1993年の貿易センタービル爆破事件でも、従業員を救済していた。軍人は、まったく正常性バイアスのワナにはまることはない。戦場で正常性バイアスのワナにかかると死ぬからだ。
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| 信じられないかもしれないが、 この状態で、まだ避難しなかった人たちがいた。 |
ハリケーン「カトリーナ」
2005年8月。ニューオリンズにハリケーン「カトリーナ」が直撃して街が水没したが、このハリケーンが来る前に避難命令が出ていて、80%の住民が避難していた。
残りの20%は車を持っていない貧困層だったということで貧困問題に注目が集まったが、死傷者の統計を取っているうちに、別の側面が浮かび上がってきたという。
危険減少・復旧センターの所長であるマイケル・リンデル氏は、被害者が死んだのは「その人が逃げなくてもいい、という信念を持ったからだ」と言っている。
このカトリーナの来襲で逃げなかったのは主に老人たちだったという。
実はニューオリンズでは過去にハリケーン「ベッツィ」、「カミール」という「カトリーナ」に匹敵するハリケーンの来襲を受けていた事実がある。
このとき、ニューオリンズが暴風雨に耐えたことを老人たちは経験して知っていた。だから、彼らは「逃げなくてもいい」という信念を持ったのだと言う。そして、カトリーナの直撃を受けて死んでいった。
そして、ハリケーン「カトリーナ」での死亡者は死者の75%は老人になってしまったのである。「経験が必ずしも良い教師になることはない」と言われている。
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| カトリーナで犠牲になった大部分が老人だった。 過去も大丈夫だから、今回も大丈夫だと考えて逃げなかった。 |
こんなひどい災害は経験したことがない
なぜ、こんな話を延々としているのかというと、多くの人がすでに感じているように、私もまた確率からして、大きな「災害が来る」ことを感じているからだ。過去の経験では推し量れない大災害が来る。
すでに日本は東日本大震災と福島第一原発事故という百年後にも語り継がれる大災害を経験しているが、第二・第三の災害が必ず襲いかかってくると確信している。
もちろん、いつどこで何が起きるのかまで預言者ではないから分からないし、それを推測することもできない。
今日2011年12月23日もまたニュージーランドでマグニチュード5.8の地震がやってきて負傷者も出ているが、ニュージーランドと言えば2011年2月にもまさに同じ場所で大地震を経験している。
最近の地球環境は明らかに異常を呈していて、今年2011年だけを見てもあり得ないほどの災害が世界中で引き起こされている。
注意して欲しいのは、ほとんどの国で災害に見舞われた人たちがこのように言っていることだ。
「生まれてこのかた、こんなひどい災害は経験したことがなかった」
2011年1月 欧米での大豪雪
2011年1月 オーストラリア同国最悪の大洪水
2011年2月 アメリカ中西部の大豪雪
2011年2月 ニュージーランドで大地震
2011年3月 東日本でM9の大地震
2011年3月 福島第1原発爆発
2011年3月 タイ南部で大洪水
2011年4月 スイス南部で干魃
2011年4月 ミシシッピ州の大洪水
2011年4月 ロンドン危険レベルのオゾン層破壊
2011年4月 コロンビアで大豪雨・大洪水
2011年4月 米ミズーリ州の連続巨大竜巻
2011年4月 テキサスで大規模火災
2011年4月 米オレゴン州で大雪
2011年4月 エジプトで強烈な砂嵐
2011年5月 中国過去50年で最悪の干魃
2011年5月 韓国でヒキガエルの大移動
2011年6月 中国来賓で大洪水
2011年6月 米アリゾナ州で史上最悪の山火事
2011年6月 インドで大豪雨
2011年6月 ソマリア大干魃で飢饉発生
2011年7月 中国北西部で灼熱日(ロシアも30度超え)
2011年7月 米アリゾナ州フェニックスの大砂塵
2011年7月 韓国記録的大豪雨
2011年9月 タイ大洪水深刻化
2011年10月 トルコ大地震
2011年10月 エルサルバドル・ホンジュラス大洪水
2011年11月 トルコ大地震
2011年12月 アルゼンチン大干魃
2011年12月 フィリピン・ミンダナオで台風直撃
2011年12月 メキシコでM6.7の地震
2011年12月 ニュージランドで大地震が二度
自分の直感を信じる
いかに異様な状況になっているのかは、国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議での各国の「叫び」にもよく現れている。
温暖化の深刻さ、後押し 洪水・干ばつ…アフリカ代表ら訴え
ジンバブエは「雨期は遅れるばかりで、今や予測さえできなくなった。極端な気温上昇、激しい雷雨、洪水、干ばつ……これらが農業を基盤とした私たちの経済を脅かし続けている」と早急な対策強化を訴えた。
ケニアも「『アフリカの角』にあたるアフリカ大陸東端の半島は、過去60年間で最も激しい干ばつの中にある。気候変動の悪影響は、ケニア経済を劇的に低迷させている」と嘆いた。
島しょ国のセーシェルは「野心的な削減目標に世界が取り組まなければ、我々の国は(温暖化による海面上昇で)水面下に沈んでしまうんだ!」と悲痛な声で叫んだ。
ナウルも同じ島しょ国として「温暖化は生死に関わると言っても過言ではない。(海面上昇の影響で)既に避難を余儀なくされている集落が出始めており、このまま対策がとられなければ、私たちの孫の時代にはこの地域に住めなくなってしまうだろう」と警鐘を鳴らした。
今秋に過去半世紀で最大の大洪水を経験したタイは「年々激しくなる気候変動の影響から、私たちも逃れることができなかった。お金には換算できないが、心の傷まで人々に残してしまった」と振り返った。
今、絶対に何があっても「正常性バイアス」にとらわれるべきではない。確率から見れば、これから大災害がさらに続いて行く。
「おかしい」と思ったら、その自分の直感を信じて、いつでも、何度でも、そして馬鹿にされても逃げるべきである。
死んでから振り返ることはできないのだから。
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